(ああ……、マッチョになりたいっ! せめて教え子に負けない体力が欲しい!)
 それが、不肖、早坂優一、恥ずかしながら高校教師のささやかなる願いだった。

 そして、今、俺は、再びそのことを身をもって痛感していた。
 放課後の化学実験室。
 いつもなら、生あくびを噛み殺しながら、翌日の授業の準備をしているはずなのに――…。
 シンと静まり返った教室に、ニチャニチャと粘液質な音が響く。
 救いを求めてさまよう視線の先に、いやらしくほくそ笑む男の顔。
「うお…、すげぇキツイ! 正真正銘のバックバージンだぜぇ」
 一際激しく男が腰を突き上げると、俺の下半身に引き裂かれるような痛みが走る。
「ひいっ――! やめっ…、因幡…!」
「ふふ…、あんまりでっかい声出すと人が来るぜ。教え子に犯られてるところなんて見られたくねーだろ? センセーよぉ」
「…あ……」
 意地悪い言葉で俺を黙らせると、因幡はさらに激しく腰を揺らし出した。

(ああ…、何で、何でこんなことに……?)
 下半身を無惨に剥かれ、教室の固い床に押し倒されて、まるで女のように尻を穿たれているなんて――…!
 それも、自分が担任している生徒に!

(何故、こんなことに――…?)
 無駄と知りつつ、俺は、今朝からの出来事を必至にたどっていた。

       ◆◆◆

 薄茶の髪の毛と女みたいな顔立ちのせいで、子供の頃から『オカマ野郎』と虐められてきた反動か、俺は男らしさってヤツに異常なほどの憧れを持っていた。
 電車の中で、横柄に大股開きで新聞読んでるバリバリ背広姿の社会人を見るたびに、羨ましく思っていた。
 あの足の開き具合がいかにも男って感じで、カッコイイなーと。
 きっと誰でも大人になればそうなれるのだと、鈍い頭脳で単純にそう信じ込んでいたのだが。
 社会に出て悟ったことは、弱いヤツはいつまでたっても弱く。
 そして、俺のようなヤワなタイプは、人を押しのける側には一生立てないのだと言う残酷なまでの事実だった。

 24歳の今。
 俺は、隣に座る横柄なサラリーマンの肘にグイグイと押され、借りてきた猫のように小さくなって座っている。
「降ります! 降ろして下さ〜い!」
 ようやく目的地に着いても、ラッシュの電車から降りるのさえ至難の技なのだ。
 ジタバタ虚しくもがいていた時、
「どけよ! 立ち塞がってるんじゃねー!」
 突然、怒声とともに人垣の間から俺に向かって差し出された手。
 夢中でそれをつかむと、逞しい胸に引き寄せられるままに電車から転がり出た。
「……ったく、ドンくせーセンコーだ」
 俺の肩を抱きかかえるようにして助け出してくれたのは、因幡駆。
 俺の教え子だ。
「因幡ぁ、助かったぁー。降りれなかったら、また遅刻するところだった」
 見上げると、俺より10センチは高い学ラン姿のツッパリ少年が、ちょっと怒ったような顔で俺を睨み下ろしてる。

 いやはや面目ない。
 自分の非力も顧みず教師などと言う職業を選んだ俺は、今日も今日とてこうやって、教え子の腕にすがりながらようよう仕事場である青葉台高校の門をくぐるのだ。
 やれ…、情けなや……。
 見回せば、何を食ってそんなにでかくなったのかと訊いてやりたくなるほどゴリラ化した教え子どもが、挨拶代わりに俺の頭を小突いてくるんだ。
 そうして、未だに俺は虐められっ子…。
 いや、虐められ教師なのだった。くすん……。
 それでも因幡のように、見てくれはグレていても、けっこう気の優しいヤツもいる。

 その因幡が珍しく、
「就職のことで相談あるんだけど、放課後、話、聞いてもらえるか?」
 などと言ってきたもんだから、
「まかせなさいっ!」
 と、俺は思いっきりうなずいちゃったよ。
 こんな気弱な俺じゃあ、尊敬される教師にはとってもなれないけど。
 ならば、せめてお兄さんのように何でも話せる先生を目指そうと、俺は俺なりに目標を持っていたのだ。

 ――そして放課後。
 俺のホームベースの化学実験室に、因幡は照れたような顔で現れた。
 俺の勧めた椅子にドカリと座り込んだ姿を見て、不覚にもドッキンと胸が高鳴ってしまったよ。
(ああ…、なんて理想の大股開き座りだ!)
 無造作な広げ方、120度くらいはありそうなあの角度、制服の上からでもわかる筋肉質な身体、まさに理想的な男っぽさなのだ。
(身長は180以上あるし、最近の子はホントに発育がよすぎるよ)
 って、18歳の生徒相手に何を見惚れているんだか……。
 うっとりと因幡の股間に注がれている俺の視線が、あらぬ誤解を招いているとは露知らず――…。

「ところで、相談したいことって何だ?」
「センセー、女いる?」
「はあ――…?」
「女だよ。恋人」
「こ…恋人なんて、そんな……」
「いねーの?」
「以前はいたけど……」
「以前は…ってーこたぁ、フラれたとか?」
 ズッキーン…☆
 な…なんで、人の傷口ほじくるようなことを訊くんだぁ、因幡ぁ?
「でも、キスぐらいしたことあるんだろ?」
「そ…そりゃあ…」
 したと言うより、奪われたと言うカンジではあったが……。
 こっちの意志などまったく無視して押しつけられた唇は、妙に生温くてベトベトして、気色が悪いだけだった。
 以来、女とはつきあってもいない。
 つまり俺は、なんと24歳にして童貞という、天然記念物的存在なのだ。
 男をアクセサリーみたいに連れ歩くものだと思ってる女には、興味の欠片も持てないし、それよりも逞しい男の方に目がいってしまうなんて口が裂けても言えやしないけど――…。
 でも、目の前に理想の男らしさが服着て座ってると、ついついぽおっと見惚れてしまったりして…。
 ああ、俺って…バカ…。

「センセーよぉ、実は俺女と付き合ったことがなくてよ。キスの経験もねーんだ」
 突然、因幡の口から漏れた意外な言葉に、俺は目をパチクリさせちゃったよ。
「えー、ウソ? モテそうなのに…」
「とーんでもねー。今の女はキツイんだよ。俺みたいなツッパリタイプは、時代遅れだってよー」
「そうかー。男が化粧するご時世だもんなー。でも、因幡、見かけによらず優しいのに。世の女は見る目がないなぁ」
「そんでさぁ、俺、卒業したら即就職だろー。嘗めらんねーように経験積んどきたいんだわ。この歳でキスの経験もねーなんて、恥ずかしくてよぉ〜。なあ、協力してくんねーか?」
「協力って…、まさか、ソープとかに連れて行けとかゆーんじゃないだろうな?」
「ちげーよぉ。だからセンセーがよ、キスのやり方、実践で教えてくれねーかなーって……」
「実践って…?」
「だから…、こうやって――…」
 と、立ち上がった因幡の顔が近づいてくる。

「ちょっ…ちょっと待てー!」
 ガシッと、思わず因幡の顔を両手で押さえてしまったよ。
 こ…こいつ、今、俺にキスしようとしてなかったか?
 実践で教えてくれって、そーゆー意味なのか?
「そ…そーゆーことは、女の子とやるもんだろう?」
「そのへんの女に、キスの練習台になってくれってゆーのか?」
「そ…それもそうだけど…。で…でも、男同士で……」
「男同士だから気にする必要がねーんじゃんか。それともあんた、何でも相談しろとか言っといて、いざとなると逃げるわけか」
「う……☆」
「なーんだ口先だけかよ。そーゆー教師が、俺みたいな不良をつくるんじゃねーの?」
 と、睨まれて、ギックリと心臓が痛む。

 そ…そうだ。
 勉強以外のことだって、教えてあげなきゃいけないんだ。
 恋の悩みなんて、何でも話せるお兄さん先生だからこそ、打ち明けてくれてるのに……。
「そ…それじゃあ、ちょっとだけだぞ」
 勇気を出して、因幡の顔を見つめ返す。
「教えてくれんの?」
「うん……」
 困る……。こんな近く見つめられると。
 だって、因幡って、逞しくて、本当に俺の理想の男で――…。
 キリリとした鋭い目も。
 ちょっとひねた笑みを浮かべる唇も。
 その唇が近づいてきて、俺の唇をすっぽりと塞ぐ。
 不思議とそれは嫌な感触じゃなかった。
 いや、むしろ心地よいくらい……。

(あれ…、何か唇の間に……?)
 突然、口の中にねっとりとした感触が広がった。
(えっ…? ま…まさか、これはぁ、し…舌だぁぁぁ――!)
 なんと、因幡の舌が入り込んできて、俺の口の中をこれでもかってほど嘗め回すんだ。
(なっ…、なななナニこれぇ〜? う…巧すぎるぅぅぅ!)
 口腔内を舐り回す舌テクの絶妙な技に、ふうっと、頭が真っ白になっていく。
(こ…これが、ホントにファーストキスかぁ、因幡ぁ〜?)
 抵抗するとか何とか、そんなことはもう考える余裕もない。
 されるがまま、どんどん奥に入ってくる因幡の舌を、精一杯口を広げて受け入れるしかない、俺。
 たっぷりと流し込まれる男の蜜を呑み込むしかできなくて、ゴクリと喉を鳴らすと、因幡はようやく白い糸を残して俺を解放してくれた。
 でも、なんだか俺は、下半身の力がスットーンと抜けてしまったみたいで立ち上がることさえできないんだ。

「いい味だったぜ、センセー。ついでに、もう一つ頼み事訊いてくれるか?」
「…はあ…?」
「俺さぁ、並より小さいみたいなんだ。それが悩みの種でよぉ。センセーの見せてくれねーか?」
 何のことかとぽおっとしてると、因幡は俺の前に跪いて、ズボンのベルトを外し始めた。
「おい…、見せろって、まさか――…?」
 呆気にとられている俺をよそに、因幡は馴れた手つきで下着の中から俺のアレを引き出したんだ。
「へえ、包茎?」
「ガァァ――ン! そ…それを言うなぁ!」
「可愛いじゃん。人形みてぇ」
 って、笑いながら、いきなりしごき出す。
「こっ…こらぁ、何をしてるんだぁー?」
「でっかくなったサイズを見たいんだよ」
 言うなり、パックンと口に含んだ。

(う…うっそぉぉぉ――…?)

 あまりの驚きで身動きもできない。
 いや、下手に動けば噛まれるんじゃないかと思って、恐怖で動けなかったのだ。
 だが、怯える心とは裏腹に、下半身から湧き上がってくる言い様のない快感。
「よ…よせっ――…」
 必死で訴えるが、舌先で先端の割れ目をクリクリといじくられると、俺はもう堪らず、
「あ…ああーっ…!」
 と、みっともないほどのよがり声を出してしまったんだ。

(ああ…、変だ、俺は――…)
 ここは学校なのに。
 教室なのに。
 誰が入ってくるかもわからないのに。
 いつの間にか、すっかりズボンも下着もむしり取られ、淫らに下半身をさらした姿で、生徒の舌に翻弄されているなんて――…。
 恥ずかしさからか、妙に昂揚してしまった俺、あっと言う間に絶頂を迎えて、無様にも教え子の口の中で果ててしまったんだ。
 因幡は俺の放った精を残滓までも丹念に嘗めると、満足げに唇を離して立ち上がった。

「俺の見る?」
「…はあ……?」
 脱力感に、椅子からずり落ちそうになっている俺の目の前に、ムックリと膨れ上がっている因幡の股間があった。
 ジーッとファスナーを下ろす音がやけにハッキリと耳に響いた。
 そうして、開け放たれたズボンの前に俺が見たものは……、すでにブリーフからはみ出るほどに勃ち上がっている、巨大な男の証だった。
 スッパ――ンと、頭の中がスパークした!
(で…デカイっ! 今時の高校生は、身体だけじゃなくて、アレまでデカイのかっ?)
 ズンズンと鎌首を持ち上げてくる因幡のモノの見事さに気圧されて、俺はただただ唖然と見入るだけ……。

「あんた、さっき俺の股間を見てたろう。欲しいんだろうコレが?」
「え……?」
「嘗めろよ。好きなだけ」
 命じるように言いながら、俺の髪をつかんで引き寄せる。血管も露わに勃ち上がった巨大なモノが近づいてくる。
(う…ウソだろう? これを嘗めろなんて、ウソだと言ってくれ、誰かウソだと――…っ!)
 心で叫びつつ、でも、無理矢理ソレが俺の口にねじ込まれた瞬間。
 そのあまりの堅さと熱さに、感動しちゃって、
(ああ…、これこそ男だ!)
 と、思わずチュウって吸ってしまったんだぁ〜。
 ああ…、俺ってバカ――!

「センセー、初めてなんだろ? そのわりに巧いぜ。へっ…、とんでもねー好き者だな」
 因幡は、意地悪くからかいながらも、さらに俺の喉の奥までアレを押し込んでくる。
 口いっぱいに溢れる汗の匂い。
 俺の頭を押さえ込んでいる力強い手。
 そして、喉を穿つ太い楔。
 その何もかもが、あまりに憧れの形そのもので、息苦しさに咽びながらも逆らうことができないんだ。
(ウソだ! これは夢だ。悪夢だ――…!)
 必死に心で否定してみたものの、それは夢でも幻でもなかった。

       ◆◆◆

 気がついた時、俺は両足を大きく開いて床に押し倒され、双丘の間に隠れている哀れなほどに小さな秘孔を、因幡の太いモノでズブズブと穿たれていたのだ。
「ひ…やっ…! ああ――っ…! も…もうやめてっ…。へ…変になっちゃうぅぅぅ〜!」
「いい声出しやがってぇ。決めたぜ、俺、期末テスト、サボるぜ」
「えっ…? あ…あんっ…、何っ、テストを…?」
「したら留年確実だ。もう1年お世話になって、毎日こうやって、たっぷりセンセーを可愛がってやるからな」
「そっ…そんなぁぁぁ――…!」
「嬉しいだろ? 朝も、昼休みも、放課後も、アソコが乾くヒマもないくらい犯りまくってやる」
「う…うっそぉぉぉ……」

 そんなバカな……。
 毎日、生徒にこんなことをされ続けるなんて。
 これから1年も、朝から放課後までだってぇ〜?
 いや、この勢いじゃ、休み時間ごとにやってくるかもしれない。
 ウソだ…、誰かウソだと言ってくれ。
 何で俺がこんな目にぃぃぃ――…!
(た…助けて…、誰か、助けてぇぇぇ――!)
 だが、俺の中を掻き回すモノは、衰えるどころかどんどん勢いを増していく。

(ああ……、でも、どうしよう。気持ちがいい――…☆)

         END